公開・更新日:2026年08月14日
台湾投資家のための日本事業投資DDチェックリスト
日本の事業投資では、想定利回りや事業説明だけで判断せず、収益が生まれる仕組み、投資家の権利、資金使途、経営者、財務、契約、法規、投資後の報告と退出を確認します。デューデリジェンス(DD)はリスクをゼロにする作業ではなく、情報を検証し、価格・契約・実行条件へ反映する作業です。本記事は確認項目の整理であり、個別案件への投資助言ではありません。
執筆
KEI TAKAHASHI 株式会社SERENSEED 代表取締役。日本の上場半導体専門商社で台湾製Wi-Fiチップの日本大手メーカーへの導入を推進し、台湾ではTIL spaceを創業。
この記事の結論
- 利回りより先に、株式・貸付・共同事業など投資形態と法的権利を確認する
- 財務DDだけでなく、顧客、経営者、契約、許認可、労務、IT、資金使途を横断して検証する
- 外為法上の届出、台湾からの送金・税務、投資後の報告・退出を契約前に専門家と確認する
DDで確認する主要領域
| 領域 | 主な資料 | 確認する問い | 契約・判断への反映 |
|---|---|---|---|
| 事業・顧客 | 事業計画、顧客別売上、契約 | 収益は再現・継続できるか | 前提条件、価格、KPI |
| 財務・税務 | 決算、試算表、申告、資金繰り | 利益と現金は一致するか | 価格調整、補償、資金計画 |
| 法務・労務 | 登記、許認可、契約、雇用資料 | 権利義務や紛争はあるか | 前提条件、表明保証 |
| 経営・運営 | 組織、業務、IT、取引先 | 特定人物へ依存していないか | 引継ぎ、PMI、報告体制 |
| 投資規制・退出 | 投資契約、外為法資料、株主構成 | 取得・送金・売却が可能か | 届出、譲渡、買戻し条件 |
投資形態と受け取る権利を最初に確認する
普通株、優先株、貸付、匿名組合、共同事業、事業譲受などで、分配、議決、担保、損失負担、情報請求、退出の権利が異なります。「年8%」という数字だけでは権利も返済順位も分かりません。
誰と契約し、どの法人・事業へ資金が入り、投資家は何を受け取るのかを取引図にします。金融商品取引法その他の登録が必要な勧誘・取扱いに該当しないか、資格者へ確認します。
経営者・株主・資金使途を確認する
代表者と主要株主の経歴、役割、関連会社、過去の事業、利益相反、後継者、意思決定を確認します。創業者一人に顧客・技術・口座・承認が集中する場合は、投資後の継続性を検討します。
調達資金を設備、在庫、採用、返済、既存株主の売却のどれに使うかを分けます。資金使途と事業計画が一致し、入金後に確認できる報告方法があるかを見ます。
財務DDで利益・現金・負債をつなぐ
複数年の決算、月次試算表、銀行残高、借入、売掛・買掛、在庫、固定資産、税務申告を確認します。売上成長だけでなく、粗利、固定費、営業キャッシュフロー、運転資金、季節性を見ます。
一時的な売上、関係会社取引、回収遅延、滞留在庫、簿外債務、個人経費、保証、補助金依存を確認します。将来計画は実績と受注・顧客データで検証します。
事業DDで顧客が支払う理由を検証する
市場規模の資料だけでなく、顧客別売上、継続率、解約、単価、受注経路、競合、価格決定力、主要契約を確認します。上位顧客への集中と、経営者個人の関係に依存する売上を分けます。
商品・サービスの再現性、供給能力、品質、不良、納期、知的財産、規制、顧客インタビューを通じて、投資後も収益が続く前提を検証します。
法務・許認可・知的財産を確認する
登記、定款、株主名簿、議事録、許認可、顧客・仕入・賃貸・借入契約、訴訟、保証、個人情報、商標・特許・著作権を確認します。契約の名義と実際の事業主体が一致しているかを見ます。
株式取得や支配権変更で解除・承諾が必要な契約、譲渡できない許可、経営者個人名義の資産は、クロージングの前提条件や価格へ反映します。
税務・労務・社会保険を専門家と確認する
法人税、消費税、源泉、地方税、税務調査、繰越欠損、関係会社取引を確認します。投資形態、配当・利息、株式売却、日台租税の扱いは台湾・日本双方の税理士へ確認します。
雇用契約、給与、残業、社会保険、退職、業務委託、キーパーソン、未払、労務紛争を確認します。事業承継では従業員の継続と経営者保証の扱いも重要です。
運営・IT・セキュリティの継続性を見る
仕入、製造、販売、請求、在庫、顧客対応が文書化されているか、特定担当者や一社へ依存していないかを確認します。主要設備の更新、災害、品質事故、保険も確認します。
会計・顧客・EC・クラウドのアカウント所有者、バックアップ、権限、個人情報、サイバー事故、ライセンスを確認します。経営交代後にアクセスできないシステムは事業継続リスクです。
投資価格と想定利回りを複数シナリオで検証する
基準、下振れ、重大下振れの売上・粗利・固定費・追加資金を作り、分配と元本回収の条件を確認します。想定利回りが売上成長、借入、資産売却のどれに依存するかを分解します。
高い想定収益ほど、前提が外れた場合の損失、追加出資、分配停止、売却困難を確認します。利回り、元本、分配、売却価格を保証する表現は個別の権利とリスクを隠します。
外為法の届出と日台の送金手続きを確認する
外国投資家による日本企業への出資等は、業種・取得割合・投資家属性などにより外為法の事前届出または事後報告が必要になる場合があります。財務省は、事前届出の要否を投資家が判断することを原則として案内しています。
投資実行日から逆算し、日本の弁護士・金融機関・日本銀行の手続案内へ確認します。台湾側でも対外投資、銀行送金、本人・資金源確認、税務の手続を銀行と専門家へ確認します。
投資契約・クロージング・投資後管理へ反映する
DDで見つかった問題を、価格調整、前提条件、表明保証、補償、誓約、情報権、取締役、資金使途、重要事項の承認、追加資金、譲渡・退出へ反映します。問題を一覧にしただけではDDは完了しません。
投資後100日程度の引継ぎ、月次報告、予算差異、銀行権限、顧客・従業員対応を計画します。SERENSEEDは案件情報と確認項目を整理し、必要に応じて登録事業者、弁護士、会計・税務等の専門家と連携します。
実務ケース
実務モデル:日本事業投資の段階別DD
台湾投資家が日本の非上場事業を検討する際、利回り表示だけで決めず、段階ごとに投資判断を進める想定例です。
費用構成例
- 初期整理:案件概要、投資条件、資金使途
- 事業・財務・法務・労務・税務DD
- 弁護士・会計士・税理士等の専門家費用
- 翻訳、契約、登記、送金・為替関連費用
- 投資後の月次報告・モニタリング費用
必要書類
- 直近3期の決算書・申告書
- 月次PL・BS・資金繰り
- 顧客別売上・主要契約
- 株主・借入・保証・担保
- 許認可・訴訟・税務・労務資料
- 資金使途・下振れ試算・退出条件
失敗を防ぐ確認
- 想定利回り8%を保証と解釈する
- 表面利回りと手取りキャッシュフローを混同する
- 売上減少・追加資金・退出困難の前提を検証しない
これは投資判断の手順例であり、勧誘、投資助言、元本・利回りの保証ではありません。個別案件は登録事業者と法務・会計・税務の専門家へ確認してください。
投資判断前に確認する資料
- 投資形態・契約当事者・権利
- 株主・経営者・関連会社
- 複数年決算・月次試算表・資金繰り
- 顧客別売上・主要契約・受注
- 借入・保証・簿外債務
- 許認可・知的財産・訴訟
- 税務申告・社会保険・労務
- 資金使途・事業計画・下振れ試算
- 外為法・銀行送金・台湾側手続
- 投資後の報告・経営参加・退出
費用を左右する主な項目
- 候補案件の調査・情報整理
- 法務・財務・税務の専門家確認
- 契約・送金・保有体制
- 投資後の運営・報告体制
よくあるご質問
高利回りならDDを詳しく行えば安全ですか?
DDを行っても損失リスクはなくなりません。収益前提とリスクを理解し、価格・契約・投資後管理へ反映し、許容できない場合は投資しない判断も必要です。
財務諸表だけ確認すれば十分ですか?
不十分です。顧客、経営者、契約、許認可、労務、IT、資金使途、外為法、投資後の運営と退出も横断して確認します。
台湾人が日本の非上場会社へ出資するとき届出は必要ですか?
業種、取得割合、投資家属性、取引形態等で異なります。財務省・日本銀行の最新案内を確認し、日本の弁護士等へ個別判断を依頼してください。
SERENSEEDは投資判断や収益を保証しますか?
保証しません。候補情報、事業性、確認資料、専門家連携を整理します。投資判断は投資家自身が資格者の助言を得て行います。
確認先・参考情報
制度や輸出入条件は変更されるため、実際の手続きでは各機関・専門事業者の最新情報をご確認ください。